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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)1358号 判決

原告

西田糸江

右訴訟代理人

曾我乙彦

外二名

被告

木下勝夫

右訴訟代理人

松井清志

主文

一  被告は原告に対し金一四八万円及びこれに対する昭和五二年三月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一原告が被告との間で昭和五〇年一月三〇日原告所有の普通乗用自動車(ニツサンセドリツク、五〇年型ハードトツプ二〇〇〇CC、以下「本件自動車」という。)一台を、駐車料一か月金一万円で被告の経営するモータープールに駐車・格納する契約を締結したことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、原告はその後右契約に基づいて本件自動車を駐車していたところ、昭和五一年五月二七日ころ本件モータープールにおいて、駐車中の本件自動車一台及びこれに積載中のゴルフセツト一式が盗難にあい紛失したことが認められ、他にこれに反する証拠はない。

ところで、右駐車・格納契約の性質・内容について、原告は寄託契約であると主張し、被告はこれを争うので検討する。

〈証拠〉によれば、右契約締結に際し原・被告間で取り交された契約書には、その第五条に、被告は原告で本件モータープールに本件自動車を駐車又は格納した場合は右自動車について「保管の責に任ずる」旨の記載があり、さらに第六条に被告は不可抗力又は原告及びその関係人の故意・過失によつて車輛が滅失した場合はこれについて責任を負わない旨、また第七条に被告は本件モータープールに駐車・格納中の車輛に積載されている物件等については保管の責に任じない旨の各記載があることが認められ、これらの各条項は、本件モータープールに駐車・格納中の車輛については被告が原則として保管責任を負い、これを前提として例外的に免責される場合があることを定めた趣旨であると解され、他に右契約書の各条項を検討してみても被告の保管責任を否定するような規定は全く見当らない。

また、〈証拠〉によると、本件モータープールは、普通自動車約三〇台の駐車が可能であり、周囲三方をブロツク塀(一〇段重ね)、一方をブロツク塀(四段重ね)の上に金網を施した塀で囲まれ、敷地全面が屋根で覆われており、出入口は一か所で鉄製の門扉があること、出入口の真正面には道路を隔てて本件モータープールの管理を委託されていた田中健治方店舗(タバコ・パン等の小売販売店)兼居宅があり、同人又はその妻は、昼間右店舗の店番等をしながら本件モータープールへの車の出入を監視し、出入口の門扉を夜一〇時ごろ閉めて朝六時ころ開けていたこと、右田中は、七・八年前被告から指示されて出入口の門扉に施錠をし、駐車契約をした各利用者にそれぞれ合鍵を渡していたが自己の都合により約一年間位でこれを廃止し、以後右門扉には施錠をしていなかつたこと、本件モータープールの利用者は、すべて一か月以上の期間を定めて駐車契約を結び、常に田中から指定された一定の場所に駐車していたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

以上の諸事実によれば、原・被告間の本件モータープールの駐車契約は、自動車の寄宅契約であり、被告は、本件モータープールに駐車・格納中の本件自動車について保管の責任を負い、これについて有償の受寄者として善良な管理者の注意義務があると解すべきである。

被告は、本件モータープールの出入口門扉は一日二四時間施錠されておらず、いつでも自動車の出し入れが可能な状態であること、右モータープールには管理人を置いていないうえ、利用者が自由に車を出し入れして各自が自動車の鍵を保管していること、原告は右のような管理状態を十分知悉して駐車契約をしていること等を挙げて、本件モータープールの駐車契約は単なる自動車の保管場所の提供にすぎず、被告には保管義務がない旨主張する。しかし前記認定のとおり、原・被告間に交わされた契約書には被告の保管責任が明確に規定されているのであり、右契約に基づいて被告が本件モータープールをどのように管理するかは本来被告が任意に決めることであつて、その管理・維持方法と被告の責任内容とは直接の法的関係はない。現に被告はかつて夜間、出入口門扉に施錠していたことがあり、自己の都合でこれを取り止めたからといつて、それだけで被告の責任内容が変るものでないことは明らかであろう(被告本人尋問の結果によると、右契約書の内容は右施錠されていた当時から全く変つていない。)。また〈証拠〉によれば、右契約書第五条本文、但書には、本件モータープールに駐車・格納した車輛については被告が保管の責に任ずるものとする。但し車輛の出し入れは一切原告が行い被告はこれに関与しないものとする旨の規定があり、これと〈証拠〉によれば被告は、契約自体において車輛の出し入れはもちろん自動車の鍵の保管についても自己がこれに一切関与しないことを前提にしたうえでなお被告が駐車中の車輛について保管責任を負うことを約定したものと認められる。

したがつて被告の主張するような諸事実があつたとしても本件駐車契約が寄託契約であるとの前記認定を覆えすには足りない。

二被告は、本件盗難事故は原告が本件自動車のドアロツク及びエンジンロツクをかけ忘れたために生じたものであるから被告の過失に基づくものであると主張するが、これを認めるに足りる証拠は全くない。

三前記甲第一号証(契約書第七条)によれば、原・被告は、本件契約において、本件モータープールに駐車・格納中の自動車に積載されている物件については被告が保管の責任を負わない旨の約定をしたことが認められ、他にこれに反する証拠はない。

原告は、右約定は積載中の物件が車輛の中から紛失した場合について定めたものであり、駐車中の車輛ごと一緒に盗取された場合には適用されない旨主張するが、右甲第一号証の記載に照し採用できない。

そうすると、ゴルフセツト一式についての原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四〈証拠〉によれば、本件自動車は、原告が昭和五〇年一月ごろ代金二一五、六万円で購入したもので、盗難当時の時価は少くとも金一四八万円であることが認められ、他にこれに反する証拠はない。

五以上の事実によれば、被告は、原告に対し善良な管理者の注意義務を履行しなかつたことに基因する本件自動車の盗難による損害を賠償する義務があるというべく、本訴請求は、損害金一四八万円及びこれに対する本訴状送達による催告の翌日である昭和五二年三月三〇日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(市川頼明)

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